更新日 2022年3月11日
はじめに
「矢倉囲い」は歴史ある将棋の戦法で、古くは江戸時代から指されています。
最も基本的な囲いと呼ばれており、江戸時代の伝説の棋士である本因坊算砂が、同じく名高い棋士である大橋宗桂との戦いで初めて指しました。
構えの形が屋敷や城の周りに配置される矢倉(櫓)に似ていることから、この名前が付けられたと言われています。
バランスよく構える重厚な戦い方やその歴史、また覚えることが多くて難解なことから「将棋の純文学」とも呼ばれるようになりました。
一方でその奥深さから多くの棋士たちを虜にし、さまざまな研究が行われてきた魅力のある戦法でもあります。
今回はそんな矢倉囲いの特徴や戦い方について解説していきます。
矢倉囲いの特徴
矢倉囲いは相居飛車戦(お互いに居飛車であること)で用いられることが多い戦法です。
居飛車党を志す方は避けては通れない囲いであり、囲いを勉強する第一歩としてもよく挙げられています。
囲いの特徴として、縦からの攻撃に強く、横からの攻撃に弱いことが挙げられます。
そのため、横からの攻撃に会いやすい対振り飛車戦(飛車を左右に移動させる戦法)にはあまり採用されません。
また矢倉囲いは長い歴史の中で、復活と滅亡を繰り返してきた戦法でもあります。
将棋の世界は流行り廃りが早く、一時期大活躍した戦法も研究により弱点が発見されて使われなくなることもよくあります。
その点、矢倉囲いは一度滅びても、矢倉囲いを愛する者の手によって形を変えることで何度も復活してきました。
記憶に新しいのは2019年。それまで新たな戦法の登場によって矢倉囲いは一線級から遠ざかっていました。
しかし2019年に矢倉囲いの新たな手によって大復活を遂げています。
このように移り変わりが激しい将棋界において、不死鳥のごとく何度も復活してきた粘り強さも矢倉囲いの特徴の一つです。
矢倉囲いの種類
矢倉囲いは長い歴史の中で幾度も形を変えてきました。
そのため多くの種類がありますが、ここでは代表的なものをいくつか紹介します。
▼金矢倉
「金矢倉」は最も一般的な矢倉囲いです。指されることが多いので単に矢倉囲いと言えば、この金矢倉を指します。
歴史の長い矢倉囲いの原型だけあり、1618年にはすでに金矢倉が指された棋譜が残っています。
全体的に固い囲いではありますが、玉将の横っ腹を守っているのは金将1枚なため、やはり横からの攻撃が弱点です。
また端攻めにもあまり強くないので注意が必要となります。
▼銀矢倉
「銀矢倉」は金矢倉の6七の地点の金将が銀将に替わった形です。
金矢倉と形は似ていますが、金矢倉と比べて銀将を所定の位置まで動かすのに手数がかかるので戦い方は大きく異なります。
銀矢倉は最初から狙って指すことは少なく、戦いの流れの中で完成することが多い囲いです。
また守りの要である金将を1枚しか使っておらず、もう1枚の金将を攻めに使っていく必要があるため、工夫や慣れが必要となります。
▼矢倉穴熊
「矢倉穴熊」は矢倉囲いから発展して穴熊に変化した囲いです。
主に矢倉囲いが完成した後、お互いに様子見状態となった際に移行する囲いになります。
穴熊系の囲いとしては守備力はそこそこであり、最初から矢倉穴熊を狙って指すことはありません。そのため実戦であまり見ることがない囲いです。
▼片矢倉(天野矢倉)
「片矢倉」は金矢倉より守りが薄い分、バランスが良い囲いです。
金矢倉との違いは玉将と金将の位置で、1マスずつ右側に寄っています。その結果、金矢倉よりも一手早く囲いが完成するのが特徴です。
金矢倉ほどの固さはありませんが、完成する早さとバランスの良さを活かして、急戦(早い段階で戦いが起こること)で活躍する囲いです。
また通常矢倉囲いは居飛車の戦法ですが、片矢倉は振り飛車でも用いられることがあります。
ちなみに江戸時代末期の天才棋士天野宗歩がよく指したことから、「天野矢倉」と呼ばれることもあります。
▼土居矢倉
「土居矢倉」は大正から昭和前半にかけて活躍した棋士の土居市太郎が好んで用いたことから名付けられた囲いです。
金矢倉に比べて守りが薄く、固さはそこまででもありません。しかし、完成するまでの早さや、囲いを若干右に配置することで自陣全体のバランスを保っていることが長所です。
土居市太郎は昭和15年には既に土居矢倉を採用していますが、当時はあまり見ない陣形でした。
ただ昨今の将棋界は囲いの固さよりも、バランスや玉の広さ(玉将が逃げる場所があること)が重視されるようになったことから、改めて土居矢倉が見直されてきています。
バランスが崩れると一気に攻め立てられるので使いこなすのは難しいですが、現代将棋に適応した矢倉囲いです。
▼へこみ矢倉
「へこみ矢倉」はその名前の通り、金矢倉に比べて金将が一段下がった矢倉囲いです。
通常よりも低く構えているため、矢倉囲いの弱点であった横からの攻撃にも対処できるようになっています。
横からの攻撃に強いので飛車交換となった際も安心して戦うことが可能です。
ただ斜めのラインを守っているのが銀将だけなため、斜めから攻められると一気に崩れることもあります。特に相手の角には注意が必要です。
金矢倉の流れ
ここからは金矢倉の駒組と手順について解説します。
1.角道を開ける
矢倉囲いを組むには、まず角道を開ける必要があります。
矢倉囲い以外の陣形でも、角道を開けるのは基本なので相手に出方を読ませない意味もあります。
また、この際に相手も角道を開けてきた時は注意してください。
放置しておくと相手から角交換に持ち込まれて、激しい戦いになりがちです。
矢倉囲いは基本的にじっくりと指す陣形なので、角交換されそうになった時は6六に歩を進めて角道を閉ざしましょう。
2.金銀でカニ囲いを作る
次に玉将を守るための金銀を動かしていきます。
ここでの動かし方は複数ありますが、おすすめなのは「カニ囲い」という囲いを作りながら金矢倉に移行していくパターンです。
カニ囲いは矢倉囲いの原型とも言える囲いで、ここから矢倉囲いに発展させることができます。
また先にカニ囲いを作ることで、相手が急戦を仕掛けてきた時に最低限の守りを作った状態で戦うことができるのもメリットです。
カニ囲いは画像のように金銀を二段目に移動させ、玉将を下に潜り込ませることで完成します。
3.金矢倉の形を完成させる
カニ囲いができた後、相手が戦いを仕掛けてこなければ金矢倉に発展させていきます。
カニ囲いの金銀をさらに押し上げて、金矢倉の形を完成させてください。
ただしこの瞬間は玉将から金銀が離れているので、隙が生じやすい場面でもあります。
玉将を移動させる前に攻撃を仕掛けられるとまずいので、相手の出方をよく見て慎重に指しましょう。
4.角を動かして玉将を囲いに入れる
金矢倉の形が完成したので、最後に玉将を囲いの中に入れる必要があります。
しかしこのままでは角が居座っているので、玉将を動かすことができません。
そのため、角を7九、6八と移動させてスペースを開けます。
またこの動きによって角を効果的に使えるようにもなっています。
ここまで来たら、あとは玉将を角がいた位置に動かせば金矢倉の完成です。
金銀に守られた強固な囲いが出来上がりました。
特に上からの攻撃にはかなり強いので、落ち着いた戦いを進めることができます。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は将棋の最も基本的な囲いの一つである矢倉囲いについて解説しました。
矢倉囲いは将棋の長い歴史の中で常に活躍してきた囲いです。
特に居飛車党の方には避けては通れない囲いであり、しっかりと玉将を守ってから戦うという将棋の基本を学べます。
また日々進化を遂げているので、初心者の方だけでなく上級者にも指しがいのある魅力的な囲いです。
皆さんもぜひ多くの棋士が愛した矢倉囲いに触れてみてください。