更新日 2021年12月15日
はじめに
「穴熊囲い」は将棋の守備の陣形の一つで、最も守備力の高い囲いと言われています。
その堅牢さからプロ棋士同士の対局でも頻繁に指されており、人気のある戦法です。
昔から存在する囲いでしたが、元々はあまり人気のない囲いでした。「穴熊などやるようでは強くなれない」とまで言われていたほどです。
しかし、プロ棋士間において徐々に見直されていき、非常に指される事が多くなります。
一時は居飛車側が使う穴熊囲いが猛威を振るい、振り飛車党が全く勝てなくなるほどでした。
現在では様々な対策が生まれ、圧倒的というほどではありませんが、それでもなお有力な戦法として指されています。
今回はそんな穴熊囲いの特徴や種類、実際の手順について解説していきます。
穴熊囲いの特徴と弱点
穴熊囲いの特徴は何とも言っても高い守備力が挙げられます。
多くの駒で守り、玉将を隅に囲うその様子が熊が穴蔵に潜るように見えることから名付けられた穴熊囲いは、見た目からして守備力の高さを物語っています。
【図1】
穴熊囲いの固さは玉将を守る駒の多さもさることながら、「王手がかからない」ということが大きいです。(このことを「ゼット」と言います)
将棋において、王手を無視することは反則手になるので、王手をかけられた側は一旦守備にまわる必要があります。
しかし、一度穴熊囲いが完成すると、一手では王手がかからないので、その守備力を生かしてどんどん攻めに転じることができます。
守備力が高いので、多少の攻撃にはビクともしないことを生かして、通常では成立しづらい無茶な攻撃を成立させてしまうのも穴熊囲いの特徴です。
例えば、飛車や角のような大駒と呼ばれる強力な駒は、通常玉将の次に大事な駒として扱いますが、その大駒を取られてしまったとしても穴熊囲いを崩すのに時間がかかる事を生かして、大駒を犠牲にしてまで攻めてしまうような攻撃も可能としてしまいます。
そんな穴熊囲いですが、もちろん弱点もいくつかあります。
まず、穴熊囲いが完成するまで、多くの手数がかかることです。玉将を隅まで動かし、守りの駒をその周りに持っていくまでに時間がかかります。
そのため、相手によっては穴熊囲いが完成する前に攻めてくる場合もあり、この際は中途半端な囲いのまま戦うことを余儀なくされてしまいます。
また、玉を隅に配置し、周りを多くの駒で囲う、というその極端な陣形から、自陣のバランスが悪くなる、という弱点も存在します。
ほとんどの駒が自陣の左右どちらかに偏るため、逆側が手薄になり、相手の持ち駒を打ち込む隙が多くなってしまうことも。
さらに、駒の大部分を守備に使うため、攻撃力が落ちるケースもあります。穴熊囲い自体の守備力は強固でも、攻め駒が乏しく、結果受けてばかりで攻撃できないことを「穴熊の姿焼き」と呼びます。
高い守備力を誇る穴熊囲いですが、極端なスタイルから弱点も多く、指しこなすのは難しい囲いでもあります。
穴熊囲いの種類
一言に穴熊囲いといっても複数の種類が存在します。
まず大きく分けると「居飛車穴熊」と「振り飛車穴熊」に分類されます。
両者は名前の通り、それぞれ居飛車が使う穴熊、振り飛車が使う穴熊になります。
現在主流なのは居飛車穴熊であり、主に対振り飛車戦で使用されることが多いです。
居飛車穴熊の中でも、基本形の居飛車穴熊に加えて、弱点の一つであった角頭を強化した形である「松尾流穴熊」や、組むのに更に時間がかかりますが、その分強固な「ビッグ4」、玉将を隅ではなく桂馬の下に配置する「ミレニアム囲い」などが挙げられます。
一方、振り飛車穴熊は現在あまりプロ棋士の間では指されていませんが、角を交換してから戦う「レグスペ」と呼ばれる穴熊戦法など、アマチュア間ではまだまだ人気のある戦法の一つです。
居飛車穴熊囲いの手順
ここからは実際にシンプルな居飛車穴熊の手順について解説していきます。
居飛車穴熊はまず「船囲い」と呼ばれる陣形を作ることから始まります。
【図2】
角道を開けた後、玉将を角の横まで持っていき、右側の金・銀をそれぞれ2段目に上げてください。
この形が船囲いと呼ばれるもので、この形のまま相手に急襲を仕掛けていく戦法も存在します。
今回は穴熊囲いに組んでいきますので、ここから更に発展させていきます。
玉将の横に居た角を斜め上に上げて、玉将の通り道を作ってください。
この時、相手が角交換を狙ってきた場合には、6筋の歩を上げて交換されないようにします。次に隅にある香車を一歩前に上げ、玉将をそこに配置します。
その後は隅の玉将を金・銀で囲えば穴熊囲いの完成となります。
ここまで組むことができれば、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない形です。
【図3】
ミレニアム囲いの手順
次に紹介するのは「ミレニアム囲い(トーチカ)」という穴熊の手順になります。
居飛車側の穴熊囲いはその硬さで猛威を振いましたが、その対策として「藤井システム」という画期的な戦法が登場します。
藤井システムは穴熊囲いを完成させる前に急襲を仕掛け、遠くの角から玉将を睨むことで潰してしまおうという戦法でした。
【図4】
この藤井システムに更に対抗するために生まれたのがミレニアム囲いであり、通常の居飛車穴熊とは一味違う囲いになります。
手順としては、途中までは居飛車穴熊と同じです。ただ、角を斜め上に上げる際に、6筋まで上げてしまいます。
そして、桂馬を7七の地点に跳ねるのが大きな特徴です。桂馬を跳ねてしまうことで、その位置に玉将を配置することができるようになり、相手の角道に玉将が当たらないようになります。
あとは他の穴熊と同様に金・銀で囲ってしまえばミレニアム囲いの完成です。
ミレニアム囲いは守備力では他の穴熊に少し劣りますが、その分相手の角に玉将が狙われなくなるので、相手が藤井システムで玉将を狙ってきた場合には優秀な囲いになります。
【図5】
振り飛車穴熊囲いの手順
最後に紹介するのは「振り飛車穴熊」です。
名前の通り、振り飛車側が使用する穴熊囲いになります。
前述した穴熊囲いとの一番の違いは右隅に玉将を囲うことです。
居飛車側(左に囲う)の穴熊囲いの弱点の一つである「玉将が相手の角道に当たる」ということがないので、角から狙われる危険性が少ないのも特徴の一つです。
手順は左右が逆な事以外は居飛車穴熊とほとんど同じですが、振り飛車になるので飛車を左に振ってから囲いに転じてください。
【図6】
また穴熊囲いは基本的に金・銀を3枚使用する事が一般的なのに対し、振り飛車穴熊は金・銀を一枚ずつの計2枚で囲う事も多いです。
その分、穴熊囲いとは逆側の陣地にも守りを効かせることで、相手の飛車からの攻撃に備える事ができます。
振り飛車党は美濃囲いに組む事が多いですが、振り飛車穴熊の場合は4筋が空くことになるので、飛車を4筋に回って戦う事もあります。
相手の玉将に近いところで戦いを起こせるので、穴熊囲いの守備力を生かして、どんどん攻めていく事も可能です。
ただ、逆にこちらの玉将も近い位置にいるので、反撃に遭った場合は注意が必要になります。
振り飛車穴熊の中でも角を交換した上で指すものをレグスペと呼び、こちらも穴熊囲いの固さを武器に交換した角を使って戦っていく有力な戦法です。
おわりに
今回は穴熊囲いの特徴や種類、戦法について解説しました。
穴熊囲いは何と言ってもその守備力の高さが魅力的な戦法です。実際に指してみると「一手で王手がかからない」というのは非常に有り難く、攻めに意識を集中する事ができます。
ただし、やはり指し慣れていないと攻めの駒の少なさから攻めが切れてしまう事もしばしば。また人気戦法という事もあって、相手も対策を講じている事も多いので、注意が必要です。
「最初にしっかり守りを固めて、どんどん攻めていきたい!」という方にオススメの戦法です。
ぜひ参考にしてみてください。